日々の慈しみ

アニメや現代美術など

Yuck - Get AwayのMVは何が描かれているのか

前回りさちさんの漫画の感想を書きたいと言いつつ、手元にないから記憶も曖昧になってしまったので、誰か漫画を貸してくださるか、りさちさんに増刷してもらおうと思います。

 

今回書こうと思ったのは、2011年3月に公開されたYuckのGet AwayのMVは一体何が描かれているのかということについて少し思う点があったからです。

www.youtube.com

 

当時この映像を、ロバート・スミスばりの、あるいはシャフトばりの角度で見つめてくるダニエル・ブランバーグの顔と、裸の女に液体をかける以外の印象がほとんどないままめちゃめちゃ再生していた。大好きな曲なので。要するに何が何だか全くわからん映像だった。

 

2017年にもなり、このMVについてようやく何が映っているか考え出す人間も間抜けな気がするけど、先ほど突然このMVを思い出して見返したら少しわかった気がするので忘れないうちに書こうと思い立った。メモ程度のものだと思ってもらえれば結構。

 

あらすじというものもないのだが、Yuckのライブを見る赤髪の女(まさか、ナンバガじゃないでしょうね)が、後日NOWHEREと描かれたボードを裸で持っているところを、メンバーが乗った車が通りかかり彼女を乗せるというものなのだが、赤髪の彼女を載せるまでにも別の女の子が2人映される。

一人は長い黒髪の女の子で、二人目は金髪のかつらをかぶった女の子。共通するのはヒッチハイクをしていてボードを持っていることなのだが、一人目はSOMEWHERE、二人目はANYWHERE、赤髪の彼女は、おそらくNOWHEREと書かれていたはずだ。

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最終的に車に乗ることができた赤髪の彼女が何において特別だったのかというと、Yuckのライブにきていたから?裸だったから?ドイ・マリコの持つひまわりと同じ、イエローのネイルをしていたから?ボードにNOWHEREと書かれていたから?

多分、彼女が何も持っていないからだろう。自分の体を隠す服も、なによりここから行く場所さえ持っていなくて、これから失うものもない彼女には何もない。それが他の女の子たちとの決定的な違いだと思う。

 

しばし車に乗っていると、突然彼女は一人降ろされ、花で目隠しとYUCKと書かれた首輪、手首を縛られて油を注がれる。他にも花で体を触られたり、というのは完全に暗喩だろう。花は性器のメタファーなので。そしてこれは単なる想像だが、油をかけられるところから最終的に火をつけられて燃やされる運命を描いていると思う。一番希望のない彼女が、一瞬希望のようなものを掴んだ途端ずたずたにされて道端に捨てられるわけだ。皮肉なことに油をかけられる彼女の体は一番美しく見えるものだが。

ちなみに、初めて見た時はペットボトルの油が、最初の方に映る車内で飲料を飲んでいるメンバーのペットボトルと同じかどうかが判断できず、結局本当に油なのかどうかがわからなかったのだが、赤髪の彼女が油をかけられるシーンには、ちゃんと新しい満タンのペットボトルから油がかけられる描写がしてあったので、メンバーが飲んでいたものとは別だとはっきりわかった。

 

最後、彼女は裸のままGETAWAYと書かれたボードを持ち道端に立っているのだが、陵辱された後にGETAWAYとなるのは容易に想像がつく。しかし私は、なぜ彼女は生きているのだろうと不思議に思うのだった。あんな目にあって、油もかけられたら燃やされて殺されるのが普通くらいのものだろうと思う。私も鬼頭莫宏と同じでセロトニンが足りてないだけなのかもしれないが。

そこで考えるのが、彼女はもともとNOWHEREとボードを持つくらいだから、現実に居場所がないように感じていて、そもそもここから逃げ出したいという意味でヒッチハイクをしていたんじゃないかと思う。でも、そこから連れ出してくれた先は、ここより悪い場所(=メンバーが車で連れて行った先、その行為)で、彼女はその先でもさらに逃げ出したいと感じる。そしてGETAWAYとボードを掲げるわけだけど、それを繰り返すうちに、結局死しか彼女をどこかへ連れ出して行ってくれるものはないんじゃないかということに行き着くんじゃないかと思う。